映画『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』公式サイト|SPECIAL CONTENTS

『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』は、二宮和也扮する佐々木充を中心とする<2002年パート>と、西島秀俊演じる山形直太朗を軸とする<1930年代パート>の二部構成。映画では、充が直太朗の足跡を追うかたちで並行して描かれるが、撮影はそれぞれ1ヶ月以上かけておこなわれた。21世紀の東京と、戦前の満洲。そもそも舞台設定に大きな開きがあるため、まるで別の映画を2本続けて撮っている趣があった。
2016年7月20日。まず、<2002年パート>からクランクイン。充が直太朗の関係者の許を訪れ、話を聴くシーンからスタートした。都内の、古き佳き風情のある割烹のカウンターでのロケ。現場に現れた二宮和也は、特別ヘアスタイルなどを変化させているわけでもないのに、完璧主義者、佐々木充の雰囲気を身にまとっている。強いこだわりを持ち、自分にも他人にも厳しい神経質なキャラクターが、その一挙手一投足から伝わってくる。たとえば、後姿からだけも、どこか硬質な人となりが感じられる。表情を見なくても、まだ声を発しなくても、他人を寄せ付けない充ならではの個性が浮き彫りに。若き名優は、撮影初日、主人公像を見事に仕上げていた。

『おくりびと』でアメリカのアカデミー賞外国語映画賞に輝いた滝田洋二郎監督と、『母と暮せば』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得した二宮和也。この豪華な顔合わせは、いったいどんな現場を作り上げるのか。そこには、火花が散るような緊張感は一切なかった。二宮は「大御所と言ったら嫌がるとは思うんですけど、滝田監督は大御所なのに、大御所っぽい振る舞いがなくて、いつも役者のそばに来てくださる。何より信頼してくださるんですよね」と語る。いつも笑顔で颯爽としている滝田監督は、同時に大らかな合理性を有した演出家でもある。「『好きなようにやっていいですよ。お任せします』と言ってくださって。それなら、滝田監督が考えつかないこともやってみよう、と思える。それを考え、挑戦できることがとても嬉しかった」と二宮は振り返る。事実、二宮は自らアイデアを積極的に進言。そんな主演俳優を、監督は「本音で話せる相手」と讃える。このパートの最終盤、充がカツサンドを口にし、「美味い」とひとりごちる部分は、脚本にはなかった二宮の提案。ディスカッションを重ねるほどに、互いへの信頼がさらに高まっていたからこそ生まれた名シーンである。まさに有機的な化学反応、幸福なコラボレーションがそこにはあった。

主人公、佐々木充は「絶対味覚」を持つ、孤高の料理人。かつてはレストランを経営していたものの、完璧主義が災いして、閉店。多額の借金を返済するため、現在は「最期の料理人」として、依頼者が望む人生最後の一皿を再現している。「普段はあまり料理はしない」と話す二宮だが、「料理は言い訳ができないもの」と真摯に受けとめ、練習を重ねた。その腕前は、簡易な調理器具で最高のオムライスを作り上げるシーンに顕著。左利きの二宮があえて右手に包丁を持ち、充を見事に体現している。
そんな充と同じ施設で育ち、レストラン時代は相棒として支え、現在も良き相談相手である柳沢を演じるのは綾野剛。二宮とは『GANTZ』で共演後、親交を温めてきたという。現場のふたりは本当に仲良しで、カメラが回っていないところでもいつも一緒にいて、何かしら語り合っている。とりわけ印象的なのは、綾野がいつもニコニコしていること。その様子は、まさに劇中の柳沢に重なる。頑なで、自己中心的な充を優しく受けとめ、思いやる懐の深い柳沢は、綾野だからこそ成立したキャラクターだろう。
後半で柳沢が号泣するシーンがある。そのとき、二宮は綾野の肩にそっと手をかけた。充と柳沢の関係性がにじみ出ると同時に、二宮と綾野のつながりを彷彿とさせた。

ベテランスタッフが揃う滝田組は、機敏で動きに無駄がない。映画の現場は多くの場合、準備に時間が費やされ、キャストは「待ち」の状態になる局面が少なくないが、この現場ではすべてがテンポ良く進行していった。西島秀俊は「本当に難しいことをたくさん行っているのですが、全くそれを感じさせない現場。どんな困難があってもスタッフの誰も動揺せず、進んでいく。荒波を平然と乗り越えるんです」と語る。とりわけ料理の撮影は大変なはずだが、そんなことは微塵も感じさせない現場。朝、始まり、夕方には終わる。規則正しく、朗らかに、日々、撮影は積み重ねられていった。
そうして、8月31日、<2002年パート>はクランクアップ。充と柳沢が新たな気持ちで共に厨房に立つ調理場面は、まさに映画を締めくくるラストシーン。息のあった二宮と綾野の姿からは、滝田組全体の連携の良さが浮き彫りになった。

その翌日、9月1日には、<1930年代パート>がクランクイン。ロケ中心だった<2002年パート>とは対称的に、こちらはセット撮影が基本。この日も東宝撮影所のスタジオに作り上げられた調理場セットで撮影が行われた。
西島秀俊は何と言ってもコックコート姿がお似合い。その立ち居振る舞いからは、妥協を許さない料理人のカリスマ性が匂い立つ。西島は直太朗を次のように解釈している。「ときには人にキツく当たったり、悩んだりしたとしても、この人の根本にあるのはやっぱり料理がすごく好きで、新しい味や何かを発見することにすごく喜びがあるということ」。確かに西島が表現する直太朗は毅然としているが、どこかポジティヴィティがある。過酷な物語ながら、ことさらに深刻さを醸し出すわけではなく、前向きさが感じられる。シリアスさの中にある希望。西島は立ち姿ひとつで、それを体感させ、鮮やかなスタートを切った。

山形直太朗が日本軍から与えられたミッションは、中国の満漢全席を超える[大日本帝国食菜全席]を考案すること。実に、全112品からなる究極のフルコースだ。112レシピは、服部栄養専門学校の精鋭たちによって結成された「チーム服部」によって作り上げられ、二宮や西島の調理指導にも手がけた。西島はこう語る。「手元も本人で、と言われ、戸惑いましたが、実際に自分で料理しました。チーム服部の先生方はとにかく明るく元気な人たちで、習いに行っても楽しいんですよ。しかも、ご褒美に必ず料理を食べさせていただける(笑)。本当に美味しかったです」。直太朗や佐々木充の独創的な料理の数々は見た目だけでなく、その味も格別だったという。
直太朗の調理シーンは、助手役の西畑大吾(関西ジャニーズJr.)、兼松若人との息もぴったりで、この3人のチームプレイは本物の息吹きにあふれていた。

撮影も後半に差しかかった頃、直太朗の妻を演じる宮﨑あおいが参加。映画やドラマで西島と何度も共演している宮﨑は、さすがの呼吸で、直太朗を支える気丈で優しいパートナーを体現、物語に厚みを与える。滝田監督は以前、宮﨑と組んだ作品で全幅の信頼を置いており、「やっと、あおいちゃんが来てくれた」と本当にうれしそう。
この日の撮影は、屋外に建てたオープンセットで、1930年代のハルビンの街が、細部にこだわった美術で再現された。中国語とロシア語が入り乱れた看板が並び、市場には異国情緒の漂う食材や調味料があふれかえる。とても日本国内とは思えない雰囲気。そこを、当時の衣装に身を包んだ西島と宮﨑、そして西畑がクラシックカーに乗って、横切っていく。まさにタイムスリップした錯覚に陥った。

西島秀俊は、10月2日にクランクアップ。この日は、山形の歴史的建造物での撮影。雪を降らせるシーンも、いつものように順調に撮り進み、めでたく撮影終了。「毎日現場に来るのがとにかく楽しい組で、もっと撮影したいというのが率直な感想です」と西島。その言葉通り(?)、その後は自らクレーンカメラを操作するなど、茶目っ気ある振る舞いを見せた。それもこれも、気心知れたスタッフとの信頼関係あればこそ。滝田監督は「ふたりとも正直なの。ごまかしがない」と二宮と西島の役者としての共通点を語った。そして、「撮影していて、キャスティングがばっちりだと思った。西島さんが昔風の日本人をきちんと演じてくれている。逆に二宮さんは、ちょっとわがままな現代人の象徴を素敵に演じている。料理を通して、時空を超えたふたりの『交歓』が撮れたと思います」と万感の想いを伺わせた。
10月5日、ブツ撮りや実景撮りなども含め、全編の撮影が終了した。

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